日下公人・増田悦佐共著「それでも、日本が一人勝ち!」を読んで。

 副題に「秘密は世界に誇る中流の常識力」とあります。尖閣諸島への中国漁船への対応、東日本大震災原発処理で分かるように、誰がやってもこんなに下手に対処はできないという程の愚策を展開した「頭でっかちで人間を知らない民主党政権の政治家」に対し、「このままではいけない、我々がしっかりしなければ」と日本の中流が目覚めたと指摘しています。全編を貫いている論調は、まさに愚鈍な政治家による不作為の行為が日本を救っている、という逆説そのものです。

 それに比べ、欧米では優秀な政治家がそれなりの施策を打っていて、その結果がもはや100年は復活が不可能な欧州を作ってしまった、と言う訳です。現状の、欧州の金融危機を鑑みれば、愚鈍な政治家を選択した我々は何と幸せな選択をしたことでしょうか。この政治を創っているベースとなる健全な日本の中流の構造は、世界でも類がない程とのことです。(資産分布で、所得が下から20%の層が国民全資産の13%を握っている国は世界でも日本のみとの指摘です。)

 色々なテーマを切開している中で、筆者の興味を引いたのは「ソ連崩壊は日本が原因だった」です。元大阪学院大学経済学部の丹羽春喜教授が当時のソ連の軍事費をシミュレーションして、その(軍事費増大)結果がソ連崩壊を招いたと認識していました。所が本書を読むと、ソ連の政治家は「ソ連アメリカに負けたのではなく日本の力に負けた」と言ったというのです。

 (理由を本書から抜粋します。)
 理由はこういうことです。産油国は永遠に大金持ちだとソ連首脳は部は思いこんで、計画経済の長所をフルに発揮したつもりで、石油増産に資金を回した。ところが開発が進んで石油増産がピークになったとき、日本は省エネの技術革新を終わって、石油をそれほど輸入しなくなりました。その上、省エネの生活革新にも成功した。これはソ連の計画経済にはまったく計画されていなかった。おかげで、世界最大にして世界最高価格の石油を輸入するはずの日本がソ連の売込先リストから消滅してしまった。
 そこに増産した石油が噴き出したから、ブレジネフは責任をとって辞めざるをえなかった。まだまだ強権政治でいけると思ってアンドロポフに後継させたが一年もたず、結局、ゴルバチョフが就任し、旧ソ連は1991年12月に消滅する。
 ゴルバチョフが大統領に就任した頃に、わたしは(日下氏・筆者注)訪れたのですが、ゴルバチョフ一派はこれからどうしていいかわからない。日本人の意見を聞きたい、というので白羽の矢が立ったらしい。それにしても、わたしの意見など聞いてどうするんですか、と質問すると、「われわれは日本に負けた。アメリカに負けたとは思っていない。日本の技術力と生活革新力、日本の輸入力がものをいっている」と言う。それを日本人はまったく自覚していない。

 あのプラハの春を戦車で踏みにじった強面のブレジネフを葬り去ったのは、日本の技術力でした。何と痛快な話でしょうか。日本はアメリカに勝つ前に、堂々とソ連に勝っていたのです。日本の実力は、本人達が自覚していないだけで、本物の力なのですな。ソ連の首脳部は日本の省エネ技術に「殺される」と恐怖した、というのですから。(あとは本書を読んで下さい。)