加藤 廣著「黄金の日本史」を読んで。

 金が日本の歴史に果たした役割を遣唐使、源氏と平家、鎌倉幕府室町幕府そして信長、秀吉、家康を絡めて説明していきます。大量の金の流出を招いた江戸時代、そして明治維新の資金のからくりの解明。日清、日露戦争を経て第一次大戦参戦後のバブル発生。その後の昭和恐慌における高橋是清の政策と2.26事件。駆け足で第2次大戦へと駆け上っていきます。

 戦後のマッカーサーが登場するあたりから、筆者の得ている情報とは大いにかけ離れていきます。著者は金融業(中小企業金融公庫山一證券)を経て作家業に専念されています。参考文献を見ると、大変な読書量に思えます。それで過去の歴史は何とか表現可能でしたが、現代のこととなると、ちょっと違うかなという印象でした。これは文献から得られる情報という訳にはいかないので、物書きの限界ということでしょうか。やはり、然るべき人間へのインタビューが時には必要との結論です。

 日本国内の戦争の元が金を巡る争いであったと言う割には、世界的規模になるとそのテーマが本書ではぼやけてきます。しかし本質は同じなのです。戦争は地上では兵隊同士の壮絶な殺し合いをしますが、地下では金の奪い合いなのです。特に大東亜戦争では、アジア各国からせしめた所期目的の金を国内に集め終わった時が終戦でした。その時のエピソードをふたつ。

 関東軍畑俊六司令の運転手をしていたのが、後の国際興業社主の小佐野賢治でした。小佐野氏は支那から日本軍の物資を運ぶ運転手をしていて、運んだ中身が金であることを知っていて、その中の1.5トンを東京湾に沈めGHQ将校を買収しその金をハワイへ運び、その金がハワイのホテル群を買収した原資となった、ということでした。また、その金を運んだパイロット(陸軍航空兵)がいて、やはり金の一部をくすね、静岡銀行の地下に運んだと言います。終戦後、当時皆がカストリ焼酎を飲んでいる中、彼(元パイロット)はジョニ黒なんかを飲んでいた、ということでありました。これは、筆者が敬愛していた人生の大先輩石原喜久二氏から実際聞いた話です。小佐野氏のハワイでの成功といい、地銀ながら都銀並みの高収益を誇る静岡銀行といい、それらの秘密を垣間見た、ということでしょうか。(こんなことを関係者に聞いても、否定するに決まっていますな。)

 さて、戦後の日本の話です。著者は、今でも日本には金がないとアメリカ、ドイツ、フランスなどと比較をしています。もしもそれが事実なら、ユーロの金融危機、デフォルト寸前のアメリカをどう説明するのでしょうか。東日本大震災が起こっても、円がちっとも安くならない現実をどう説明するのでしょうか。確かに日本国内には金が僅かしかありません(実際はそうでもないのですが)。でも、各国のメガバンクが有している金の名義人が日本人だとしたらどうでしょうか。これ以上は想像してみて下さい。