北川智子著「ハーバード白熱日本史教室」を読んで。

 偶然本屋で手にした出版されたばかり(2012年5月20日発行)の本。立ち読みしたら面白そうだったので購入しました。元々理系(数学と生命科学専攻)の日本女性が、留学先(カナダの州立ブリティッシュ・コロンビア大学)の日本史の専門家(教授)のアシスタントのアルバイトをしたことがきっかけで大学院では日本史を専攻し、プリンストン大学で博士号を取得し、ハーバード大学で学生に日本史を教えることになった、というお話です。

 北川先生の教え方には、はっきりしていることがあります。学校は仮想現実的な面があって、実際社会に出て働くとその厳しい現実やルール、責任に誰もが驚きます。それ故、大学と社会の大きな差を埋めるべく、社会に出る前に大学で身につけなければいけないことをクラスに取り入れること。つまりは、クラスでは現実の問題に近い状況を想定したことです。そして他人の意見を聞いて、力を合わせて考えてみること。他人と自分の両方を信じること。それこそが社会で役立つ。だからこそグループワークを課す授業を目指したのでした。

 北川先生の考え方の底流には、「仕事には協調性が大事」という日本人的な見方があります。それが、ハーバードの学生には新鮮に映ったことでした。授業は、日本史の授業とは思えないほどICTを駆使し、プレゼン能力もさることながら、学生はひとつのプロジェクトとして学習の成果をまとめていくのです。そして学生は一人の力よりもグループで知恵を出し合った方が、日本史の学習を通して、好い成果を得ることを身をもって実践することになるのです。

 北川先生の目指した授業は、椅子に座って先生の講義を一方的に聞く方式とは明らかに違います。耳の力だけではなく、身体全体を使って歴史を体感していくような授業なのです。このような授業のあり方を知ったら、日本の歴史学者達はどういう反応を示すのでしょうか。学生達は日本史という学習を通して、仕事の仕方を自然と学んだのです。だからこの授業を体感した卒業生達は、きっとすんなりと企業の中へ入っていけると断言できるのです。